教えて ティーチャー 第3回「とろみ」の3
このコーナーは、当会のナースが、日々の臨床の中で湧き上がる嚥下にまつわる「あれ?なんかおかしくない?」といった違和感を各専門分野で活躍されている講師の先生方、当会の世話人にざっくばらんに質問するコーナーです。
担当者紹介
ナースみわ
急性期病棟勤務中にNSTリンクナースに任命されたことをきっかけに嚥下に興味を持ち、受講料の安さと講義の抄録に惹かれて受講したこの会で、いつの間にか世話人に。
ジャニーズと2人の孫をめでることが幸せな訪問看護ナース。
ナースなおみ
一度会った人の名前と顔を忘れない。巧みな話術と呑みニュケーション力で、どえらい先生方ともすぐに以前からの知り合いのように打ち解ける回復期リハビリテーション病棟協会認定看護師の資格ももつナース。最近の趣味は毎日ジムで韓流ドラマを見ながら鍛えている。3人の子とゴスペルを愛する肝っ玉母ちゃん。
つばめ太郎
当会のホームページ開設にあたり、公募の中から生まれた、このコーナーのマスコットキャラ。南の国から横浜に住み着いたちょっとグルメなつばめくん。
第3回:教えて 「とろみ」 (「水分とろみ」について)の3
前回に引き続き、今回もティーチャーは、桑原昌巳先生です。 定年まで某有名企業で嚥下食の研究・開発者として活躍。日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士資格をもつ。個性豊かなこの会をまとめてくれる事務局長。
とろみ剤の種類ってたくさんあるよね。何を使っていいかわからないっていう患者さん多いのよ。
そうだよね。利用者さんからも「どのとろみ剤がいい?」って質問多いよ。
じゃあ、また聞いてみようか。
そうだね、そうしたらその道のプロに伺いましょう!今回で3回目!桑原昌巳先生お願いします!
「とろみ剤」にはいろいろな種類があるので注意が必要なんですよ。
呼ばれました。今回もティーチャーを務めさせていただきます桑原です。
「とろみ剤」の注意する点をお教えしましょう!
解説
- 「とろみ剤(とろみ調製食品)」は各社から多種類の商品が発売されています。
「とろみ剤」の歴史は第1世代(でんぷん系)、第2世代(グアガム系)、第3世代(キサンタンガム系)と開発されてきました。キサンタンガムは、雑味が少なく透明で、物性はゲル物性の要素が強いゾル(とろみ)であり、粘度に対しての付着性が少なめで、水分とろみ用途で大変優れている素材だと思います。
現在日本ではほぼ全ての「とろみ剤」がキサンタンガム系です。「とろみ剤」には「速く粘度が発現する」と「ダマになりにくい」という相反するニーズがあります。各社さんは加工技術を工夫して、使い勝手の良い製品を開発しておりますので、同じキサンタンガム系でも多くの種類の製品が存在しています。 - 私がその中で特に注意が必要だと考えているのは、強力タイプ(ストロングタイプ)です。少量でとろみが付くことが特徴の商品で、学会分類2021の「中間のトロミ」が水の場合は濃度1.0~1.3%位です。スタンダードタイプの商品では1.5~2.0%位なのですが、強力タイプを1.5~2.0%使用してしまうと「濃いとろみ」になってしまいます。
- とろみ(水分とろみ)の粘度を容易に測定できる「簡易粘度測定法の解説」記事をHPの「専門家向け」に掲載しています。
- 以前、とろみ勉強会で講師を頼まれた時に、展示をしていた同業他社の営業さんからアドバイスを求められた経験がありましたので、エピソードとしてご紹介します。
同じ「とろみ」の粘度を付けるのに「強力タイプ」は従来のスタンダードタイプの2/3位の量になりますが、価格は少し高いだけですので、使用量が減ってトータルではコストダウンになると言われています。
横浜市内の某精神科病院の栄養科さんがコストダウンの為に「強力タイプ」に切り替えたそうです。ご相談をいただいた時は切り替えから3~4か月が経過しておりましたが、毎月の納入量が減らずに従来の量を維持しており、逆に購入金額がUPしており困惑しているとのことでした。
詳しく聞いてみると、その病院さんは病棟でとろみを付けており、毎月の使用量が従来から比較的安定していたとのことでしたので、多分現場では「強力タイプ」に替わっても従来のままの粉の量を使っていたのだと思われます。「とろみ」の粘度の変化に現場で気が付かなかったことに大変驚きましたし、長年のルーチンとしての作業習慣は、簡単には変えられないのだと思い知りました。 - ご相談を受けた営業さんには、①各病棟で使用しているであろう「スプーン」を小さいサイズに変更すること(できればメーカーからのサービス品として適正サイズの計量スプーンを提供する)、併せて②病棟での「とろみの勉強会の開催」を当該病院の栄養科さんにご提案するようにアドバイスをさせていただきました。
- このエピソードの教訓として、病院・施設さん内で一種類の「とろみ剤」を使用している場合に、「とろみ剤」を変更する時には、現場への十分な配慮が必要であることが分かりました。
あるあるだよね。ちゃんと配慮しなきゃだよね。
うちの病院はとろみ剤は患者さんの持ち込み方式なので、色々な種類を日々扱っています。知らない商品の場合は必ず箱の裏に書いてある使用量の目安を読んで確認するようにしています。
持ち込み方式だと一度に扱う種類が多すぎて余計大変ですね。
そうなんですよ。一応病院の売店で販売しているとろみ剤を勧めていますが、
やっぱり長く使うからコストを考えて、安いほうを選んでしまいますよね。
そうだよね~お金かかるもんね。
山本さんみたいに、きちんと裏の「使用方法」を見てもらえるといいんですけど、見ないで種類が違っても全部同じ分量で作る人が、まだ多いのでは?
部署でこのエピソードを教えてあげれば、みんな気を付けると思いますよ。
私も職場の人とか利用者さんに教えてあげよう。
3回シリーズでとろみ剤について解説してもらいましたが、皆さんお楽しみいただけましたか?
この知識を是非臨床でいかしてもらえると、つばめ冥利に尽きますな。これからもいろいろな分野で活躍している世話人から面白い話を聞きだすように、お二人さんよろしくね!
はーい!!(笑)
(記事担当:看護師チーム上野美和、山本奈緒美)