とろみ(水分とろみ)の簡易粘度測定法の解説
「とろみ(水分とろみ)」は、嚥下しにくい飲食物の代表であるサラサラな水分に対応する為に、嚥下障害に対応した代償法である「嚥下食」の一つとして広く使用されています。
「とろみ」は日本摂食嚥下リハビリテーション学会の「嚥下調整食分類2021(とろみ)」で「3段階のとろみ」として分類されています。
- 「薄いとろみ」
- 「中間のとろみ」
- 「濃いとろみ」
「3段階のとろみ」
「3段階のとろみ」は、各段階に対応した性状を日本語で表現され、とろみの粘度を「E型粘度計で測定した粘度の値」、「LSTの値」、「シリンジ法の残留量の値」で示されています。
詳細は学会のHPに掲載された「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」をご参照下さい。
簡易粘度測定法の解説
「とろみ(水分とろみ)」の学会分類の3段階に対応した粘度を、臨床の現場で容易に測定(推定)することができる2種類の方法について、具体的な測定方法を解説させていただきます。
- A:日本摂食嚥下リハビリテーション学会「嚥下調整食分類2021」に掲載されている「シリンジ残留法」
- B:「横浜嚥下研究会」が開発した、E型粘度計の値を換算できる簡易粘度測定法である「カテーテルチップシリンジ外筒法」
A:「シリンジ残留法」
<必要な器具>
テルモ社の注射用の10mlシリンジの外筒(スリップチップ中口)(SS-10SZ)のみを使用します。(針無しをご用意下さい)
<測定方法>
A-1:シリンジ外筒の先端を指で押さえて、「とろみ」を10mlの目盛りまで充填します。(先端まで空気抜きをしてください)
A-2:ストップウォッチ又は時計の秒針で10秒間、指を離して、「とろみ」を流出し、10秒後にシリンジ外筒の出口を指で押さえます。
A-3:残った「とろみ」の目盛りを読み取ります。
とろみの段階 | 10秒後に残った液面の値 |
薄いとろみ | 2.2ml~ 7.0ml |
中間のとろみ | 7.0ml~ 9.5ml |
濃いとろみ | 9.5ml~10.0ml |
「『日摂食嚥下リハ会誌25(2):135–149, 2021』 または 日本摂食嚥下リハ学会HPホームページ:
https://www.jsdr.or.jp/wp-content/uploads/file/doc/classification2021-manual.pdf
『嚥下調整食学会分類2021』 を必ずご参照ください。」
<測定方法を動画で示します>
「薄いとろみ」
「中間のトロミ」
<測定のポイント>
- シリンジ外筒の形状が一番重要です。指定された「テルモ社」の10ml外筒(中口)以外の他社のシリンジは使えません。
- 流出スピードは液体の粘度と、シリンジ先端部の開口面積、シリンジ先端から液面までの高さ、とろみの比重※で変わります。流出中のシリンジの保持が多少傾いても、シリンジ先端から液面までの高さの変化は少ないので、測定実験の結果に影響はありませんでした。
※:とろみの比重は、重すぎるもの(VF検査用の硫酸バリウム入りとろみ等)や軽すぎるもの(最近話題の「炭酸飲料とろみ」等、気体を多く含むもの)では流出スピードが変わりますので、この方法での測定は困難だと思います。 - A-1で、測定準備としてシリンジの10mlの目盛り線にとろみを正確に合わせることが必要ですが、中間のとろみ~濃いとろみの場合には非常に難しいです。別に「先端が太いスポイト」を用意して、上から余分な「とろみ」を吸い取る方法をおすすめいたします。
B:「カテーテルチップシリンジ外筒法」
E型粘度計の値を換算できる簡易粘度測定法を横浜嚥下研究会で開発しました。4種類の飲料(水、お茶、ジュース、牛乳)に5社(5種類のキサンタンガム系)のとろみ調整食品で各段階の粘度の水分とろみを作成し、E型粘度計と「カテーテルチップシリンジ外筒法」で同時に測定を繰り返して近似式を作成しました。現場に普及する為に当会主催通年講座の「実習」で実演を行うと共に、下記学会発表をさせていただいております。
学会発表:日本摂食嚥下リハビリテーション学会 第16回(2010年1-P4-19)、第21回(2015年P4-2)、第22回(2016年P2-5)、第24回(2018年O46-2)、日本嚥下医学会 第41回(2018年口演発表)
<必要な器具>
テルモ社の「カテーテルチップシリンジ50ml(SS-50-CZ)の外筒のみを使用します。
ストップウォッチ(ラップ測定が可能なもの)
<測定方法>
B-1:シリンジ外筒の出口を指で押さえて、「とろみ」を50mlの目盛りまで充填します。(先端まで空気抜きをして下さい)
B-2:指を離すと同時に、ストップウォッチで測定を開始します。
B-3:シリンジの40mlの目盛りを通過する時間を測定(ラップ計測)します。
(10ml流出した時間(秒)です)
B-4:シリンジの20mlの目盛りを通過する時間を測定(ラっプ計測)します。
(30ml流出した時間(秒)です)
B-5:シリンジの0mlの目盛りに到達した時間を測定します。
(50ml流出した時間(秒)です)
B-6:B-3からB-5の結果の内、4秒から20秒の範囲に該当した秒数を、下記に当てはめて推定粘度を読み取ります。
リンク:PDFファイルのダウンロードアドレス
(E型粘度計の粘度の値の規格は、「学会分類2021(とろみ)早見表」から引用)
- 「薄いとろみ」は、表の黄色の範囲から読み取ったE型粘度計に換算した粘度の値が50~150mPa・s
(単位の読み方:ミリパスカル秒) - 「中間のとろみ」は、オレンジ色の150から300mPa・s
- 「濃いとろみ」は、赤色の300~500mPa・s
<測定方法を動画で示します>
「中間のとろみ(粘度が低め)」
「中間のとろみ(粘度が高め)」
<測定のポイント>
- シリンジ外筒の形状が一番重要です。「テルモ社」のカテーテルチップ型50ml(SS-50CZ)以外のシリンジは使えません。
- 特に、現在切り替えが進んでいる新しい経腸栄養剤用のシリンジ(ISO80369-3規格:テルモ社の場合はED-50A50)は、接続部の形状が全く異なる為、使用できません。
- 流出スピードは液体の粘度と、シリンジ先端部の開口面積、シリンジ先端から液面までの高さ、とろみの比重※で変わります。流出中のシリンジの保持が多少傾いても、シリンジ先端から液面までの高さの変化は少ないので、測定実験の結果に影響はありませんでした。
※:とろみの比重は、重すぎるもの(VF検査用の硫酸バリウム入りとろみ等)や軽すぎるもの(最近話題の「炭酸飲料のとろみ」等、気体を多く含むもの)では流出スピードが大きく変わりますので、この方法での測定は不可能です。 - ラップ計測が出来ないストップウォッチを使用する場合は、B-3、B-4、B-5の内、有効な測定対象時間(4秒~20秒程度)となる目盛り通過時のみ計測して下さい。
- 前記A:の方法では残念ながら「濃いとろみ」と「濃すぎるとろみ」の区別がつきません(10秒間では滴下しない状態になり、測定ができません)が、このB:の方法では測定が容易です。
また、準備作業として50mlの目盛りに合わせる方法も、少し多めに充填してから流出させて液面を下げることが容易です。
「濃いとろみ」を測定する場合はB:の方法をお勧めします。 - AとBに共通して、「水分とろみ」用ですので、学会分類コード2-1のミキサー食等の食品の粘度測定には使えません。
測定方法に関するご質問は、HPの「お問合せ」からお願いいたします。
(記事担当:事務局桑原昌巳)