横浜嚥下研究会

嚥下障害への対応をもう一度確認してみませんか?

嚥下障害の異常所見は幾つか有りますが、その所見に対応した治療を行わないと、嚥下障害の改善は難しいと考えます。例えば、反回神経麻痺のために声門閉鎖不全が生じ、声が嗄れて水や食物を誤嚥している症例に、アイスマッサージを行うのはどうでしょうか?機序を考えることが必要です。今回は嚥下運動における異常所見をいくつか紹介します。また、それ以外の所見への対処法もお伝えしたいと思います。まずは正常を知らないと異常はわかりませんので、正常嚥下を確認してみてください。

正常嚥下(20代男性、座位、薄いとろみ3cc)

代表的な嚥下異常所見

早期咽頭流入:液体嚥下においては口腔内での「保持」が必要となりますが、この保持が出来ないことで生じる現象になります。嚥下造影検査では、液体を口の中に溜め、検者がどうぞ飲んでくださいと言う前に咽頭へ流れ込んでしまうことが認められます。この早期咽頭流入は、咀嚼を必要とする固形物においては当てはまりません。あくまでも液体嚥下時(命令嚥下時)に使われる表現となりますのでご注意ください。この早期咽頭流入が起きる原因として ①認知機能低下 ②口腔内感覚低下 ③口峡閉鎖不十分(舌および軟口蓋の運動障害)といったことが考えられます。また、④外科的に舌や軟口蓋を切除している場合も早期咽頭流入は生じます。臨床的に見抜くには、①-④の存在や水分嚥下させて嚥下運動前にムセこみが出現した場合に限ります。基本的には見えないので、あくまでも推測の域からは出ません。下の動画は口腔内保持が出来ずに早期咽頭流入し、誤嚥した映像になります。

舌運動障害:脳卒中、神経筋疾患により舌運動を支配する舌下神経障害によるものです。また口腔がんにより舌切除した場合も高率に出現します。典型例では、咽頭へ送り込むことが出来ずに口腔内残留著明となります。舌運動障害は部位によっても変化が生じ、舌尖の動きが悪くなると舌アンカー(歯茎部への押し付け)が不十分となります(舌圧低下の原因として考えられています)。舌背では十分に口蓋へ密着することが出来なくなり、その状態でスクイーズバックが起きるので結果として食塊が口蓋に付着・残留することになります。奥舌においては、口峡閉鎖の仕事が不十分となり、結果として早期咽頭流入が生じてしまいます。舌根部は嚥下圧を作る大事な部分ですが、ここの動きが低下することで咽頭残留が生じるようになります。また、舌根部の運動低下は喉頭蓋の倒れこみを不安定にさせ、喉頭蓋谷上に咽頭残留が起きるようになります。

鼻咽腔閉鎖不全:脳卒中、神経筋疾患、口腔がんといったものが原因で出現します。教科書的には迷走神経支配障害が生じることで出現するものと考えられています。Dysarthriaとしては開鼻声が有名です。この鼻咽腔閉鎖不全は嚥下障害の世界で最も厄介でして、治らない・治りにくいものの一つです。嚥下時には閉鎖(口唇閉鎖、鼻咽腔閉鎖、喉頭閉鎖)が重要です。運動に併せて閉鎖をすることで嚥下圧が生じますが、この圧が鼻腔側へ流入することで咽頭クリアランス低下が起きます。舌運動、咽頭収縮、舌骨喉頭運動、食道入口部が正常だとしても鼻腔へ圧が抜けるので結果として咽頭残留が生じてしまいます。自験例では説明のできない鼻咽腔閉鎖不全が出現すると予後は非常に厳しく、数か月以内に死亡へと繋がっています。サルコペニアが共通しているのですが、経管栄養管理で対応してもうまくいかないこともありました。栄養障害は絡んでいるのでしょうが、よくわかりません。それなので臨床的に開鼻声をみると不安になります。ただし、開鼻声=鼻咽腔への逆流というわけではないので、その都度VE、VFといったもので確認を行うとよろしいかと存じます。臨床的には鼻から食塊が逆流してきた、食事中にくしゃみがやたら多い、食事中に鼻水が毎回垂れている(ティッシュの使用もアウトカムになりますね)といったわかりやすいものから、吸引で鼻腔から食塊が引けた、鼻腔領域の分泌物が多いといったマニアックな所見もあります。下記動画では2秒、7秒、17秒で嚥下反射時に鼻咽腔へ食塊が逆流している映像がみられます(一時停止するとわかるかと思います)。また透過性が高い場面では上咽頭に造影剤が付着していることがわかります

喉頭運動障害(喉頭下垂):まず知っておいて頂きたいのが加齢による喉頭の下垂です(喉頭支持靭帯のたるみ、筋力低下と考えられています)。男性の場合、高率に認める所見の一つです(女性が無いわけではありませんが、かなり少ないです。甲状軟骨の大きさ・重量の違いによる性差)。喉頭安静位置は頸椎5番の高さにあり、挙上時は3番まで上がることが報告されています。余談ですが、火葬場で「これがのど仏です」といわれているものは実は頸椎5番です(甲状軟骨は文字通り軟骨なので燃えてしまいます)。ちょうど喉頭の位置と第5頸椎が同じなので誤って認識されたようです。話を戻しますが、喉頭下垂が起きると喉頭運動が低下します。嚥下時に舌骨は0.5椎体前方+1椎体上方(斜め前に移動)へ動き、喉頭は1椎体以上挙上するのが正常です。喉頭下垂例もこの運動自体は正常なのですが、喉頭の位置が下がってしまった故に運動開始位置が下になります。そのため、喉頭挙上最大位も下がることになり、結果として ①喉頭蓋倒れこみ不十分 ②甲状軟骨の前上方への移動不足によって生じる食道入口部スペースの狭小といった機能障害が発生し、③喉頭蓋谷残留 ④梨状窩残留へ繋がります。また、①があることで喉頭閉鎖は不十分となり、喉頭侵入や誤嚥といった問題もみられるようになります。

健常例との比較(安静時位置)             正常な喉頭挙上

健常例との挙上比較

舌骨喉頭運動障害:喉頭下垂以外でも舌骨喉頭運動障害は起きることが知られています。例えば、脳卒中、神経筋疾患になることで神経麻痺や変性が生じ、舌骨や喉頭を挙上させる舌骨上筋群と甲状舌骨筋(唯一の舌骨下筋)に運動障害をもたらします。また、近年では嚥下障害の世界にサルコペニアが台頭しました。栄養障害が引き金になり、筋力低下を呼び起こす考え方です。このサルコペニアにより喉頭運動も影響を受け、挙上障害に繋がると考えられています。

嚥下反射惹起遅延:嚥下障害の中核症状の一つです。水分においては、液体の先端が梨状窩に到達した瞬間から喉頭挙上最大位までの時間が0.35秒以内だと正常として扱います(LEDT)。自由嚥下(咀嚼嚥下)においては、喉頭侵入が起きた時間から嚥下反射が出現するまでの時間が遅延時間として計測されます。臨床では、嚥下反射惹起遅延は見抜くことが出来ないので、あくまでも推測の域を出ません。そのためサマリーでは、嚥下反射惹起遅延はVF、VEといったもので確認していない限り記載することは難しいと思われます。もしも記載する場合は、臨床的に嚥下反射惹起遅延を疑っています程度に述べるのが無難だと考えます。動画はLEDT計測をしたところ2.22秒の遅延を認めました(2.57秒-0.35秒)。LEDTの遅延と誤嚥は相関することが研究報告されています。この動画では嚥下中に誤嚥が生じました。

咽頭残留(咽頭クリアランス):嚥下障害の中核症状の一つです。様々な理由で出現します。
詳細はコチラ:咽頭クリアランス

まとめ資料

(記事担当:西山耳鼻咽喉科医院 西山耕一郎/よこはま港南台地域包括ケア病院 ST粉川将治)

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