命令嚥下と自由嚥下の違いを教えて下さい
命令嚥下と自由嚥下の違いを教えて下さい
A.命令嚥下=水分の嚥下、自由嚥下=咀嚼嚥下のことを指します。
【命令嚥下と自由嚥下の経緯】
- 1990年代前半までの嚥下は生理学的モデルの3期モデル(準備口腔期?咽頭期?食道期)ないし4期モデル(準備期?口腔期?咽頭期?食道期)で説明を行なってきました。水分の嚥下をベースに研究し、食物にも応用されています。アメリカのSLPのlogemann先生が有名です。しかし、1997年にアメリカのSLPのpalmer先生が一大センセーショナルを起こします。水分の嚥下と咀嚼の嚥下は違うことを報告しました。いわゆるプロセスモデルです。
【生理学的モデルと臨床モデル】
- 生理学的モデルとしては、3期モデルや4期モデル、プロセスモデルがあります。3期および4期モデルは口腔で食物を保持し、食塊形成(要はハンバーグを口の中で作る)を行い、口腔から咽頭に送り込み、嚥下反射が惹起されると考えられています。食塊が梨状窩に達してから嚥下反射惹起されているようでは、嚥下反射惹起遅延として扱われます。この考えが未だに根強く残っていますが、あくまでも水分嚥下だけに使われる概念です。咀嚼嚥下でこの考えを用いてはいけません。
- プロセスモデルは、3期および4期モデルを否定している訳ではなく、あくまでも食事を食べることに着目したものです。食事場面は、固形物と液体両方が混ざり合うことなんてザラにあります。そこでpalmer先生は、健常者で嚥下を見直しました。食物を口腔内に取り込み、すくい上げ(stage1transport)?咀嚼(processing)?送り込み(stage2transport)を並行し、食塊の一部を喉頭蓋谷に溜めます。食塊形成は喉頭蓋谷で行われるというのは驚きです。ただ、すべてを喉頭蓋谷で行なっている訳ではなく、口腔内から中咽頭にも食塊はありますから口腔から喉頭蓋谷までのエリアで食塊形成が行われていると考えた方が妥当だと思います。そして、健常者でも一部は梨状窩にまで食塊が達し、嚥下しないことがわかりました。これは今までの命令嚥下における嚥下反射惹起遅延の概念を大きく覆すことになったのです(嚥下反射のスタートが自由嚥下は遅れる)。
一方、よく臨床で用いられる「先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期」の5期モデルですが、これはあくまでも臨床での便宜上使われているものです。嚥下だけでなく、「摂食」を含めているのが特徴的だと思います。元々は脳血管障害による高次脳を想定し、「先行期」という概念を入れたのでしょうが、近年は認知症が増加してしまったので、先行期障害は重要なものになっています。臨床モデルは成書が沢山ありますので割愛させて頂きます。
4期モデルやプロセスモデルは生理学的モデル、5期モデルは臨床モデルなので混同しないようにして下さい。
【臨床における水分嚥下と自由嚥下】
臨床において、drinking(ドリンキング=水分嚥下)をeating(イーティング=自由嚥下)してしまう患者を見かけます。要は水分なのに噛んで飲む訳です。この嚥下をする方たちは認知症に多く、水分を自由嚥下で操作してしまうために、嚥下反射惹起遅延が誘発されてしまいます。一方、eatingをdrinkingで操作する場合もあります。高齢者の一部で散見されますが、ほとんど咀嚼無しで嚥下してしまう訳です。咀嚼嚥下の不全型とでもいいますか、完全型が丸飲みになります。
つまり、drinkingやeatingが上手く出来ないと誤嚥や窒息の原因になると考えられます。
文責:クローバーホスピタル リハビリテーションセンターST粉川将治