横浜嚥下研究会

声門閉鎖術

先日、声門閉鎖術を経験しました。

症例は60代、進行性核上性麻痺(PSP)の方です。発症して2年ほど経ち、唾液誤嚥による誤嚥性肺炎を繰り返し、今回のオペに踏み切った次第です。

話は1年半前に遡りますが、カラダが思ったように動かない、食事でムセが酷いことを主訴に神経内科を受診し、診断名はPSPがつきました。うちのリハ医に『PSPが診れるなんて良い経験になるね』と言われ、当時の私はPSP=プレーステーションポータブルですか?と言い放ち、リハ医の爆笑を誘った記憶があります(笑)

さて、そんなしょーもないネタは置いといて、事前情報、臨床評価、VFとVEをとったところこんな所見が認められました。

事前情報

臨床評価

VF

①鼻咽腔閉鎖不全
②舌根部後方運動不十分
③咽頭収縮不足

VE

⑤少量の喉頭蓋谷唾液貯留
⑥声門閉鎖反射及び咳反射はややpoor
⑦水分嚥下において、嚥下反射は遅延
⑧着色水嚥下において咽頭残留は喉頭蓋谷、左右梨状窩に少~中等量

画像より

嚥下障害重症度:水分誤嚥
誤嚥・侵入スケール:6
藤島グレード:6
自宅での摂食レベル:10
*グレードとレベルの乖離はハイリスク

どのように考えるべきか?

既往に脳血管や肺炎がないこと、現在バイタルの著明な変動もなく、胸部レントゲン、L/Dの炎症上昇がわずかなこと、本人の食べる意欲が明確だったこと、家族も協力的で在宅介護は問題ないこと、経口をギリギリで行う限り誤嚥性肺炎のリスクは常に存在し、最悪窒息さえもあり得る。それを了承していること。
以上の理由により経口をはじめました。

まずは、VF上のbest swallowを用いて嚥下評価と段階的摂食訓練を開始しました。

並行して、主治医はACE阻害薬と抗パ剤、そして運動リハを処方しています。

結局、1ヶ月かけて前述のbest swallowで3食経口摂取可能になりました(呼吸器トラブルなし)。そして無事に自宅へ。

めでたしめでたし

という訳にはいかなかったのです
ご主人が家に帰ってから、これだと不憫だということで、本人の好きなものを食べさせていたそうです。案の定1ヶ月後にブーメランのように帰ってきました…しかも肺炎のオマケ付きで。

主治医はガッカリ、私やリハ科スタッフもガッカリでした!

その後の経過をよく知らないのですが、H25.11に耳鼻咽喉科へ気管切開の依頼で話がきました。唾液誤嚥が制御出来ないのが理由です。カルテをみると、トラヘルが半年以上入っていて、栄養管理はPEGになっていました(トラヘル半年って…)

耳鼻咽喉科医師より家族へ気管切開の説明を行い、それ以外にはこういう手技がありますよと誤嚥防止術の話をしました。するとそちらに反応を示して、あっという間に声門閉鎖術の話が決まりました。

実際のオペは2時間ほどで、今回は甲状軟骨と輪状軟骨の一部を取り除き、声門を閉じる手技でした。声帯を披裂軟骨ごとバッサリと半分に切って、上方、中間、下方の三層に分けて縫い合わせていました。特に中間層は死腔が存在し得るため、筋皮弁(嚥下医学には胸骨舌骨筋と書いてありました)を入れてスペースを埋めています。多分、これをやらないと術後トラブル(感染か離開)の原因になるのでしょうね。

オペ後に取り除いた甲状軟骨片を触りました。色は白くて、厚みは1mmぐらい、喉頭ファイバーのような弾性があり、匂いはよくわかりませんでした。

オペ後は、5日ほどカフ付きカニューレ管理をし、最終的に永久気管孔となりました。やはりカニューレフリーって大事ですよね。

今は唾液誤嚥がなくなりひと時の平和が訪れています。

まとめ

経験して思ったのは、こういった進行性神経疾患の症例、制御不能の唾液誤嚥等はダラダラと保存するのがBestではないということです。
執刀医の先生が仰っていましたが、肺炎の入院治療は一回あたり7-8万点、声門閉鎖術は確か6-7万点。
ブーメランのように繰り返す入退院(誤嚥性肺炎)と一回で済む声門閉鎖術…閉鎖術の話を出すタイミングも重要ですよね。
いつも思いますが、高齢者で嚥下に絡む症例は時間がそこまでないということです。
また、医療経済の観点からも決っして軽視出来ない問題だと考えます。
日本の医療は世界でも類を見ない程終末期にコストをかけ過ぎているという報告があるそうです。
今のままではダメなことはわかっていますから、国民全体で終末期を再考しないといけませんね。

以上です。超長文で失礼しました。

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