横浜嚥下研究会

繰り返される肺炎(薬剤性嚥下障害)

薬剤性嚥下障害症例の報告です

【症例】

家族とは完全な疎遠状態 生活保護
入院時診断名:誤嚥性肺炎、脱水、脳梗塞後遺症

既往

右MCA領域の脳梗塞(左片麻痺)、脳梗塞後に器質性精神障害、誤嚥性肺炎(H25.8)

【要旨】

6…歳男性、施設暮らし。5年前の脳梗塞を契機に器質性精神障害となり、メジャートランキライザー(以下メジャー)の服用を開始した。今年5月から非常に攻撃性が増し、精神科外来でメジャーの増量を行った。しかし、効果が薄いので増薬増量を繰り返して鎮静を図った。
すると8月に誤嚥性肺炎でA病院へ入院した。軽快退院後3週間で再度誤嚥性肺炎に罹患し、当院へ入院となる。

メジャーをoffにし、コンディション回復に努め、VFを実施した。介助にて座位、全粥、キザミ、水分3ccまで可能だった

翌日より食事を開始したが嚥下としては問題なし。これなら3食摂取まで可能だろうと判断した。しかし、コンディション回復と同時に攻撃性が上がってしまった。仕方なく手に負えない精神病をコントロールするためにメジャーを再開した(就薬で効かない場合は、別指示のメジャーを追加)。

メジャーを再開した次の日にはドロドロになり、誤嚥性肺炎のリスクが高いので食止めとなった。NG tube管理となり精神科医師が薬を調整したが、最終的に経口摂取には至らなかった。

経過からみても、明らかに薬剤性嚥下障害を呈し、誤嚥性肺炎を繰り返す症例である。薬を止めると食べられるが、他者への迷惑が非常にかかるという現実問題をどう対処すべきなのか?薬のコントロールが難しくなった症例へ安易にPEGを入れて、ドロドロにして精神科病棟へ送るのもどうなのか?
経験者なら誰もがアタマを悩ませる一例である。

【個人的な見解】

当然、経口摂取を追いかける立場のSTとしては経口にこだわりたいところです。しかし、キレイごとだけで話を進められないケースです。
メジャーを入れて鎮静をかけないと病棟スタッフのストレスが高まり、それが新たな事故を産み出す可能性もゼロではありません。私だって、いくら患者さんとはいえ暴言や暴力に耐えられるほどメンタルは強くありませんし(笑)
また、経口を追いかける=メジャーが十分量入らないことになります。つまり、今後の『生活』を送るであろう施設で、この方をみる職員が困ってしまいますよね。

結論ですが、今はメジャーをしっかり使って鎮静をかけることを優先し、栄養管理はPEGにするしかないと思います。ベースをしっかりさせてからメジャーの減量を図り、精神障害と嚥下の折り合いがつくようなら再度経口tryに持って行くというものです。長期戦かつその期間に二次性サルコペニアが加わるので、このプランは机上の空論になる可能性が高いのも理解しています。つまり、一生経口摂取が出来ない可能性の方が高いということです。

患者優先の考え方からは逸脱しているかもしれませんが、一つの考え方で述べさせて頂きました。賛否両論あるとは思いますが、嚥下をやる限りは必ずぶつかる症例です。参考にして頂けたら幸いです。

以上、ご報告させて頂きました。

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