喉頭気管分離術
現在経験させて頂いている喉頭気管分離(食道吻合術)症例です。
入院からリハ科STとして介入し、オペの見学も出来て、その後の経過もみることが出来ています。貴重な経験をさせて頂いておりますので途中経過ですがご報告まで。
【症例】
20代、重度の先天性疾患、てんかん(小学校高学年に発作があり、以降抗てんかん薬継続)、自発話なし、無表情、両親共働きのため施設暮らし、調子良い頃の基本動作は介助歩行まで、ADLはほぼ全介助、経口は座位、常食、水分フリー、部分介助、食事量のムラがある。食事時にムセこみが見られており、ここ数年は年に3回ほどのペースで誤嚥性肺炎で入退院を繰り返している。
【初回入院~再入院】【初回入院~再入院】
今年の5月からろくに食事もとれずに眠ってしまう時間が多くなった。over doseが疑われ、抗てんかん薬コントロール目的で当院精神科へ6月に入院した。
入院時のconsは傾眠で、覚醒が得られている時間が短く、栄養管理は一時的にNG管理とした。誤嚥性肺炎を繰り返していることから、VFを行ったところ、重症度(才藤)は機会~水分誤嚥、penetration-aspiration scale6、藤島グレードは6-7、入院前摂食レベルは9だった。経口は家族の希望で継続とするもST訓練のみとし、コンディションの回復を待って嚥下再評価の方向性になった。
7月に入るとてんかんのコントロールがつかずに重積状態となり他院へ転院した
8月初旬に転院先より戻ってきた時は、consはalertであり、数秒のてんかん発作が時折認められる程度で随分とコントロールがついた様子だった(抗てんかん薬はかなり増量されていた)。ただし気切が施されており、カフ付きカニューレが入っていた。絶えず痰がゼロゼロしており、頻回な吸引を必要としている状態であった
【オペに至るまで】
てんかんのコントロールがついていたので、再入院後は経過観察するため内科へ転科した(主治医は嚥下チームの内科医)。
転科後も痰量は減らず、頻回な吸引は続いていた(栄養管理はNG、経口は入院時より中止)。また、38度台の熱発を時々認め、CRPも高値であった。熱源は唾液誤嚥によるものと判断され、これ以上待っていてもNG管理によるコンディション回復は難しいと嚥下チーム(内科医、耳鼻咽喉科医、リハ医、歯科医、ST)の結論の下、家族へPEGを提案し、それを承諾された。その時に誤嚥防止術の話も同時に行い、コンディション改善の見込みが立たない場合は次の選択肢として考えていることを伝えた。
リハの限界を迎えた時に外科的適応を考えるというのが一般的だが、今回のリハはSTだけの介入で、訓練もほとんど出来ていない。つまりリハの限界?とはならないはずである。しかし、コンディションの悪さ、重度先天性疾患とてんかん、そして家族が最終的には自宅でみるという意志を明確にし、経口摂取への強い希望があったため外科的適応ありと考えた。
しばらくしてPEGが造設されたが、いっこうに痰量は減らず、時折の熱発も続き、現状を大きく変化させることは出来なかった。ここをコンディション回復の限界とし、耳鼻咽喉科へ転科。誤嚥防止術(喉頭気管分離術)へ歯車を動かした。
【喉頭気管分離術】
誤嚥防止術の中の一つである喉頭気管分離術の原法は食道吻合術(全麻)であり、変法として盲端術(局麻)がある。両術式ともに永久気管孔のため声を失うが、意味が違う。前者は喉頭を温存しているので、再手術によって声を戻すことが出来る。しかし、後者は輪状軟骨をとってしまうので永久に声を戻すことは出来ない。これだけ聞くと前者の方が良いが、手術中および術後管理の難しさは食道吻合の方が圧倒的に高いといわれている。今回は食道吻合術を行っている。
実際のオペ時間は3時間であり、耳鼻咽喉科医師3人で行った。
【オペ後経過】
はじめはカニューレを入れていたが、術後1週間で完全に抜管し、カニューレフリーになった。数日すると抜糸も行い、キレイな永久気管孔となった。術後から痰量は激減し、熱発も一切なくなった。
術後2週間でVFを実施したところ、液体嚥下における吻合部のリークはないことを確認した。それ以外の食形態は本人の嗜好が極端なため、確認することは出来なかった。あとはベッドサイドですすめることにした。
翌日より経口をはじめたが、少しずつ本人は笑顔を見せるようになり、数日すると自力でオレンジジュースを飲むほどになった。さらに日数がすすむと、スプーンを自ら持ちゼリー食を食べるようになった。その時のご両親の感無量な表情をみた時に、本当にこの手術をやって良かったと心から思えた。今は経口3食を目指し、PEGからの脱却をtryしている。現在の重症度(才藤)は口腔問題、penetration-aspiration scale1、藤島グレードは7、摂食レベルは5である。
【まとめ】
今回は重度先天性疾患とてんかん発作、さらに繰り返す誤嚥性肺炎、栄養管理が問題となった症例である。嚥下チームで話し合い、家族と相談した上で誤嚥防止術を行った。声を失ったものの、それ以上にQOLとADLの改善が認められ、家族のニーズにも応えることが出来た。誤嚥防止術は後ろ向きな術式に思われがちだが、そんなことは全くなく、前向きな手術だということがわかった。
最後に…耳鼻咽喉科医のチカラを改めて思い知った。嚥下チームには絶対必要な存在であり、嚥下リハの限界を迎えた時に頼る最後の砦といえる。