横浜嚥下研究会

嚥下障害患者さんの一口量設定

今日は嚥下障害患者さんの一口量についてお話したいと思います。

教科書的なものでは、少量であったり、スライスゼリーを推奨していますが、これが現実に即しているかは疑問です。確かに少量で行うとリスクの軽減には繋がります。
でもグレードとレベルの設定に即した一口量でしょうか?
その先、つまり病院や施設から出た後の生活は考えられているのでしょうか?

様々な嚥下の勉強会で一概に一口量を少なく、スライスゼリーが安全という概念が神話のように語られています。
リスク管理ではそうなのかもしれませんが、最終的にはそのような一口量で折り合いをつけたらどれだけの労力と時間を取られるのか…考えただけでゾッとします

具体的な話をしますね。
例えば、1cc=1kcalとし、1食あたりのカロリーを400kcalに設定します。
嚥下の問題としては、5cc程度をなかなか飲み込まない(嚥下惹起までに30秒かかる)、一口量が多いと咽頭残留量が増え嚥下後誤嚥に繋がる。それなので一口量は3ccとします。
まずは誤嚥の問題をやっつけたいので、咽頭残留に対する空嚥下の効果を確認します。
そこそこ効果を認めるなら、空嚥下を追加しますので当然時間は延長するわけです。

こういったケースはどこにでも存在すると思います。そうすると一口あたりに要する時間はだいたい30-40秒になります。仮に40秒だったとしたら計算上は、

400cc÷3cc=133.3回の嚥下を最低限必要とし、
ここに毎回複数回嚥下として追加で1回を加えると2倍の266.6回の嚥下回数が要求されます。

そして時間に直すと、
嚥下1回あたり40秒×267回=10680秒
つまり178分、約3時間かかるわけです。
一口量を5ccに設定し、同条件の追加嚥下を加えた場合だと400÷5cc=80回×2なので160回となり、40秒×160回=6400秒つまり107分、約2時間近い数値になるわけです。
5cc設定で追加空嚥下無しとした場合でも53分、7ccで約38分です。

余談ですが、私たち日本人の一回あたりの平均嚥下は15-20cc程度と教科書には書かれており、体格の大きい人だと一回で最大60ccほどは嚥下出来るそうです。
仮に400cc程度の量なら計算上20回の嚥下で処理出来るハズです
。一般的に口腔内に固形物を取り込んで20回ほど咀嚼しますが、これには10秒-20秒を要します。
ですから400秒あれば処理出来てしまうのです。
嚥下する時間は1秒ですから、実際には口腔準備期から口腔期が一番時間を使う部分なわけですよね。
ここをショートカットさせれば時間短縮は出来るわけです。
ですが咀嚼がなくなると認知症を進ませたり、QOLを下げたりといった問題も発生してしまいます。

さて、話を本題に戻しますね。一口量を絞った食事時間は現実的な数字だと思いますか?
食事時間は私の中で、介助だろうと自力だろうと30分以内が現実的な数字だと考えています。ここから先は熱意と愛と誤嚥の領域

何故、30分が現実的な数値か?
自分なりの根拠があります。

体力的なもので言うと易疲労性の問題があります。嚥下も普通の運動と変わらないので当然疲れの影響は受けてしまいます。
また、精神機能面で言うと、集中力の低下は確実に起こってきます。
学校の授業時間が小中高大で違うのは集中力に配慮されているのは有名な話ですね。
高齢者にこれが当てはまるとは言い難いですが、若い人たちよりpoorなことは確かです。
生理的な面では、食後20分程で血糖値は立ち上がってくると言われています。
つまり、食事開始後20分を越えると視床下部にある摂食中枢が血糖値を察知し、空腹状態ではないと判断するわけです。
また、咀嚼時間の延長は満腹中枢を刺激し易いと言うのも一般的な話です。
話はそれますが、ダイエットケーキでよく言われるゆっくり食べる、たくさん噛むは意識的に咀嚼で食事時間を延長させて、血糖値を立ち上がらせ、満腹中枢の反応を待っている手技なんでしょうね
高齢者の嚥下障害は天然でダイエットを実践しているのかもしれません

最後に経験的な話をしますね。
一口量が大きい、多い場合(特に固形物)は食道へ押し込む力(嚥下圧)が高くなるため、圧不足の症例には有効です。
しかし、その反面窒息リスクが上がります。
よって認知症例にこの方法を行うと非常に危険であることは確かです。
ただし健常高齢者の場合、必ず嚥下評価を行った上で勝算ありならこの方法を選びます。近くに人がいること、本人、家族、スタッフすべてがリスクを共有していることが条件となります。

食事時間の短縮を目指すことは本人、スタッフサイドにとって有益な話です。それは一口量であったり、ペースを早くすることで実現します。しかしその反面、誤嚥や窒息リスクを上げてしまうのも確かです。

やはり、適切な嚥下評価、臨床観察の下に食事条件を設定する必要がありますね。

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