横浜嚥下研究会

摂食 eating

摂食とは

広辞苑によると「食物を摂ること」と述べられています。

食物を摂ることは、生きるために必要な行為ですが、これが何かしらの理由で障害されてしまうのが「摂食障害」になります。

代表的なものは精神科領域の神経性食思不振症、拒食症、過食症といった心理的要因による食欲異常が挙げられます。

嚥下に関しては別のページで詳しくご紹介しています。

摂食嚥下障害になると何が起きるの?

様々な理由で摂食嚥下障害は生じますが、いかなる理由であっても以下の問題は大なり小なり必ず起こってきます。

低栄養
脱水
呼吸器合併症
(誤嚥性肺炎等)
食べる楽しみの
喪失

高齢者医療における「認知症」と「摂食」の問題

私たち医療従事者が「摂食」で日々対応に難渋しているのが認知症をもつ患者様になります。

厚労省ホームページによると(以下抜粋)、『認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。

認知症にはいくつかの種類があります。

アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も多く、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程でおきる認知症です。

症状はもの忘れで発症することが多く、ゆっくりと進行します。

次いで多いのが脳梗塞や脳出血などの脳血管障害による血管性認知症です。

障害された脳の部位によって症状が異なるため、一部の認知機能は保たれている「まだら認知症」が特徴です。

症状はゆっくり進行することもあれば、階段状に急速に進む場合もあります。

また、血管性認知症にアルツハイマー型認知症が合併している患者さんも多くみられます。

その他に、現実には見えないものが見える幻視や、手足が震えたり歩幅が小刻みになって転びやすくなる症状(パーキンソン症状)があらわれるレビー小体型認知症、スムーズに言葉が出てこない・言い間違いが多い、感情の抑制がきかなくなる、社会のルールを守れなくなるといった症状があらわれる前頭側頭型認知症といったものがあります』。

認知症をもつ患者様は、「摂食」において以下の問題が生じることを多く経験します。

のどの渇きに気づかない、空腹や満腹のコントロールが調整できない、食事のペースコントロールがつかない、一口量の調整が出来ない、時には食べることへの意欲を失ってしまったり、食物が認識出来なかったり、食事を摂ることを忘れてしまうこともあります。

また、他者への暴力的な行為や言動が原因でお薬の調整をしなければならず、結果として覚醒が下がってしまうこともあります。

こういったケースでは、口からの水分・栄養補給不足、病気に対し必要なお薬の投与が出来ずに新たな問題が生じてしまいます。

現代の医療ではコンディション低下時の水分・栄養・薬をいかに摂れるかが、治療における重要な因子です。

このような時期をリスク少なく回避するため「点滴」「お鼻からチューブを胃まで入れる経鼻経管栄養」「お腹に小さな穴を開けてチューブを接続する胃ろう」といった方法が提案されます。

経鼻経管栄養
経鼻経管栄養
胃ろう
胃ろう

私たち医療従事者は治療に対し理解を得られるよう、何度も繰り返し説明を行いますが、どの方法を選んでも認知症患者様にとっては苦痛であるため、精神的に落ち着かなくなることがあります。
時に自分で針やチューブを取ってしまう「自己抜去」が発生してしまい、病院・施設によっては患者様の安全確保をするためにやむを得ず身体抑制を行うこともあります。

自己抜去

上記のような身体抑制の状態になると、身体的にも精神的にも極度のストレスを感じてしまいます。暴れたり、常に大声を出したりすることもあるので病院・施設側はお薬を使って鎮静をおこないます。
鎮静状態になると患者様は結果として覚醒や反応が下がってしまいます。

鎮静は安静臥床を生み、ニ次性サルコペニア(疾患による消耗、寝たきりによる運動不足で筋肉量が減ってしまうことです)が進み、歩けなくなったり、食事が摂れなくなる負のスパイラルが始まります。

厚生労働省統計によりますと認知症患者数はおよそ600万人、2025年には700万人まで増加すると考えられていますので、今後もこの摂食の問題は日本社会の課題になってくると思われます2)。

引用・参考文献

1)藤島一郎:脳卒中の摂食・嚥下障害第2版 2002
2)厚生労働省:厚生労働科学研究成果データベース

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