横浜嚥下研究会

誤嚥 aspiration

誤嚥することが増えていませんか?―よくムセる人は誤嚥性肺炎予備群かも―

「誤嚥」とは、気管に侵入した唾や飲食物などが声帯よりも奥に入ることをいいます。高齢者につきものと思われがちですが、若い人でも誰でも誤嚥します。ほとんどはムセたりセキ込んだりすることで、気管から押し戻されますが、なかにはうっかり気管に入ってしまうこともあります

じつは40代、50代から、誤嚥は始まっている? ―のどの筋トレが飲み込み力を鍛える―

何もしないでいると、飲み込む力は徐々に衰えていって、唾液や食べたものが食道ではなく気管や肺に入る「誤嚥」を引き起こします。さらに、気管や肺に入った唾液や食べ物によって炎症が起こると、「誤嚥性肺炎」を発症することになります。

そうならないためには「飲み込む力」を維持すること、つまり「のどの機能」を保つことが重要です。

「飲み込む力」や「のどの機能」は、のど筋トレで鍛えることができます。特別な道具やノウハウは必要ありません。

また、のどの機能が落ちてきたとしても食べ方を工夫することで「誤嚥」を予防することができます。これを知っているかどうか、実践するかどうかで、あなたが誤嚥性肺炎になるリスクはずいぶん違ってきます。

食事中だけではない!? 知っておきたい3つの誤嚥

ムセるのは、水や食べ物が誤って気管に入ってしまった時(誤嚥)に、入ってきた物を反射的に外に押し出す動きをするためです。

誤嚥には、食べたり飲んだりする時に起こる食物誤嚥のほかに、自分の唾液をうまく飲めず、知らずに肺に入ってしまう唾液誤嚥、胃に入った食べ物が逆流して気管に入ってしまう胃食道逆流誤嚥などもあります。

気管から吐き出せているうちはいいのですが、異物が肺に入ってしまうと炎症を起こし、誤嚥性肺炎を引き起こします。ムセやすいのは誤嚥性肺炎の予備群かもしれません。

誤嚥の種類 食物誤嚥 唾液誤嚥 胃食道逆流誤嚥
タイミング 飲食中の誤嚥 睡眠中の誤嚥 食後の誤嚥
どういうもの? 水分やばらけやすいもの、パサつくものなどでムセる。健康ならムセて吐き出せますが、老化や誤嚥ぐせで気が付かずに誤嚥することも(不顕性誤嚥) 寝ているときに起こりやすく、気づかないことも多い(不顕性誤嚥)。老化や体力の低下により嚥下機能が低下すると、昼間でも誤嚥することがあります。 食べ物が胃液とともに逆流する誤嚥。逆流性食道炎などで、胃の内容物が戻りやすい人に多くみられます。
どうすればよい? 食形態の工夫(やわらかく調理する・とろみをつけるなど)食べる姿勢の改善、リハビリテーションなどで予防・改善できます。 肺炎予防には歯磨き、歯周病の治療など口腔ケアが、ある程度は有効ですが限界があります。 食後すぐは横にならない、睡眠時の姿勢を工夫することで予防できます。食物、唾液、胃の内容物などが誤って気管に落ちて肺に入ると、やがては誤嚥性肺炎の引き金になります。

誤嚥しても症状が出ない!? ムセない誤嚥が引き起こす悪循環 本人や周囲の人間も気がつかないうちに誤嚥しているかも

ムセたりセキ込んだりするのが誤嚥のサインではあるのですが、ここで気をつけないといけないのは、誤嚥の中にはこうしたサインがない場合もあることです(不顕性誤嚥)。

高齢者の誤嚥性肺炎は、元気そうに見えても、肺の炎症がじわじわと続いています。不顕性誤嚥を繰り返すうちに肺の炎症が広がり、呼吸機能や体力が低下して、さらに嚥下機能も低下して食べられなくなる、という悪循環に陥ってしまいかねません。

西山耕一郎医師の調べたデータでは、在宅で介護を受けている75歳以上の患者さんのうち、約30%は誤嚥していました。頻繁に誤嚥するようになると、窒息や誤嚥性肺炎によって命を失うリスクが高くなります。3人に1人ですからかなりの高確率です。
高齢者の誤嚥を見過ごすことは、命のリスクにつながります。

また、慢性的に誤嚥を繰り返していると、ムセなくなるという報告もあります。ムセたりセキ込んだりしない不顕性誤嚥は、誤嚥全体の30〜70%を占めるとも言われ、知らず知らずのうちに誤嚥していて、いつの間にか誤嚥性肺炎を起こしている人が少なくありません。

誰もが必ず誤嚥で肺炎になるわけではない ―どんなひとは大丈夫で、どんなひとは危ない?―

食物などが気管や肺に侵入したとしても、必ず誤嚥性肺炎になるわけではありません。

誤嚥する量が多かったり、高齢だったり、病気で体力が落ちていたり、免疫機能が低下していたりすると、誤嚥したものといっしょに侵入した細菌が、気管や肺で増殖して炎症を起こすことがあります。

この炎症が悪化すると肺炎(誤嚥性肺炎または嚥下性肺炎)を引き起こします。

誤嚥したあとで肺炎を発症するかどうかは、個々の体力や免疫機能や吐き出す力、誤嚥したものの種類や量に左右されると考えられています。

気付かぬうちに進行する誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎のこわいところは、肺の炎症が初期はごく軽いので、症状がないまま、気がつかないうちに進んでしまうケースが多々あることです。

多少、誤嚥してもすぐには肺炎の症状が出ずに、ふだんと変わりなく過ごしているケースもあるのです。

高齢者や免疫機能が低い人は、一見元気そうでも、誤嚥による肺の炎症(気管支炎)が続いていて、体がじわじわとダメージを受けているケースがそれほど珍しくありません。

肺炎は治療が遅れると回復が難しくなります。

気がつかないうちに炎症が広がって、肺の呼吸機能や嚥下機能も低下して、食べられなくなってさらに衰弱するという負のスパイラルに陥りやすいことを覚えておきましょう。

誤嚥性肺炎を起こさないために 知っておきたい3つのポイント

①誤嚥と肺炎予防のために鍛える

飲み込むための喉頭挙上筋を鍛えるための運動と、呼吸筋がしっかり動くためのストレッチに加え、異物を吐き出すための呼吸筋群の筋トレや、基礎体力の向上が重要です

のどの筋肉、呼吸に関わる筋肉が最重要です。物がスムーズに飲み込めて十分な呼吸ができる姿勢を保つため体幹の強化もポイントです。

ムセるべき時にしっかりせきこめないのも問題です。

加齢とともに衰えるのどの周りの筋肉ですが、鍛えれば再び強くすることができます。

誤嚥性肺炎予防には、飲み込むためののどの筋肉と、吐き出すための呼吸筋を日頃から鍛えることが大切です。

②嚥下しやすい食事形態に調整する

飲み込む力が弱くなったら、誤嚥しにくい食材を選ぶことが大切です。

誤嚥しにくい食材は、やわらかく、まとまりやすく、食材の大きさや硬さが均一です。

べたつきが少ないことや、水分に適度なとろみがついていることなども誤嚥防止に役立ちます。

サラサラ
水・お茶・ジュース・コーヒー・味噌汁・ビールなど
ベタベタ
お餅・団子・おはぎ・赤飯など
パサパサ
パン・カステラ・いも類・硬めのゆでたまごの黄身
ボロボロ
そぼろ・チャーハン・ふりかけ・せんべい・クッキー
ペラペラ
のり・わかめ・青菜類など

誤嚥が頻回に生じる重度嚥下障害の方はミキサー食やお茶ゼリーなど嚥下食が必要になることもあります。

「料理をするのがじつは苦手だ」
「あまり難しいことはやりたくない」

そんな心配もあるかと思いますが、

「ごはんに卵をかける」
「野菜はマヨネーズたっぷりのポテトサラダを食べる」

といったように、ほんのひと手間で誤嚥予防できることもあります。料理が苦手な方でも簡単に実践できることも多くありますので、正しい知識を取り入れて誤嚥性肺炎を予防していきましょう。

③摂食しやすい姿勢や環境を整える

誤嚥予防には誤嚥しづらい姿勢をとることや、誤嚥しづらい環境を整えることも大切です。 例えば、食事をする際に

  • 顎が上を向いている
  • 両足のかかとが地面から浮いている

あなたはついこのような食べ方をしていませんか?

  • 食事を5分程度の短い時間で流し込んで食べる
  • スナック菓子を袋ごと一気食いする
  • もりそばをすすってよく噛まずに飲み込む
  • ソファや寝床で、寝ながらペットボトル飲料を飲む

こうした食べ方のどんなところが危険なのか、正しく理解するためには「摂食」や「嚥下」がどのようなメカニズムで行われいるのかを知ることが大切です。

摂食に関する詳しい記事はこちらから

食事時の姿勢

かかとのつく椅子に座り、姿勢を安定させます
むせやすい人は、やや前かがみであごを引き気味に、食べ物が胸につかえやすい人、逆流しやすい人は、上体を起こしたまっすぐな姿勢にしましょう。

ベッドにて自力で食べる場合は、45~60度の角度に背もたれを調節し、あごを引いて食べると誤嚥しにくくなります。食事の介助が必要な人は、30度の傾斜にすると、食べ物の取り込みと送り込みがしやすくなります。

また、逆流による誤嚥を防止するため、食後2~3時間は座った姿勢で過ごすとよいでしょう。

飲み込む力が誤嚥性肺炎を防ぐ 必要なのは「のどトレ」の習慣化

加齢とともに増える誤嚥性肺炎ですが、その原因となる飲み込み力の低下は40〜50代から始まっています。

高齢者だけの問題ではなく、むしろ、最近声がかすれる、思わぬ時にムセるといった症状が気になりだしたら、早い時期から適切なトレーニングをすることで、嚥下障害を防ぐのが得策です。

飲み込めないのは、飲み込む筋肉(喉頭挙上筋)の衰えが原因で、気管を喉頭蓋という防波堤で閉じることができないためです。

喉頭挙上筋は鍛えれば強くすることができる筋肉です。

今後、当ホームページの動画でご紹介する予定です。ここでは当会代表の西山医師が描いたイラストで「のどトレ」を紹介いたします。

のどトレ

片手でおでこを押さえ、あたまは下に向ける。

そうしますとのど仏を持ち上げる筋肉が収縮します。

これを毎食前に5秒間×10回おこなってください。

はじめは5秒間×3回でも構いません。トレーニングは継続をすることに意味があります。

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